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水蜜桃の刻
第14章 氾濫
……それからというもの、本郷くんは、挨拶や仕事上の会話以外で私に話しかけてくることが少なくなった。
雑談はするけれど、そう……あからさまなあの態度はもうされなくなった。
しばらくは意識せざるを得なかった彼の言動。
けれども、言うなればその以前に戻っただけの態度に私も次第に慣れていく。
……もう、あれから一か月半が過ぎていた。
先生と、再び身体の関係を持つようになった、あの日から────。
そして、私と先生の関係。
それも変わることはなかった。
いつも、連絡は先生から。
別れ際に『俺からまたLINEする』と言われれば、私はそれを待つしかない。
私からしたときもあったけど、返事はもらえなかったからその一度でもうするのをやめた。
呼び出される場所は決まってホテル。
……そう、私と先生の関係は今も身体だけ。
初めて抱かれたあのとき。
私と先生はここから始まっていける──そう思ったけれど。
抱くぐらいなのだから嫌われてはいないはず、という根拠のない考えに縋り、なら想いを伝えれば受け入れてもらえるんじゃないか? という期待まで持っていた私だったけれど。
すぐに始まるその行為。
終われば、先生はあとは帰るだけ。
毎回それが続けば、いくら私にだってわかる。
そしてそうやって先生の意図に気づいてしまえば、もう何も……そう、何も言えずにそれをただ受け入れることしかできなくなった。
好きだと言えないまま、私は先生をこの身体に受け入れ続ける。
想いは私の中でだけぐるぐると渦巻き、出口など見つけられないまま心に留まり続けていた。