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水蜜桃の刻
第15章 その背中
……そして今日も、その時間がきた。
ぐったりとベッドに横たわる私に向けられている、シャワーを浴び終わって戻ってきたその背中。
縋りたいのにそれをすることはできない。
だからただ、見つめた。
急に、こみ上げてきた涙。
今日もキスしてくれなかった。
結局最初のあのときだけ。
もう、先生は私にその唇を許してはくれない。
……触れさせては、くれない。
つつ……と、目尻からそれが零れ落ちた。
私はこの関係から抜け出したいのか、抜け出したくないのか。
もう自分の気持ちさえわからない。
ただ、先生を失いたくないというその想いだけしか、もう────。
……ふと気づけば、先生が振り返って私を見ていた。
瞬きの拍子にまた零れた涙を慌てて拭う。
でもまたすぐにそれは零れて、やだ、もう……と、無理矢理に笑いを作りながら呟き、先生の視線から逃れるように毛布を頭まで引っ張り上げた。
しばらくの、沈黙。
涙を落ち着かせるにはいい時間だった。
「……透子ちゃん」
やがて先生が静かに口を開いた。
呼ばれた私は毛布から、顔の半分だけを出す。
私を見ていた先生と目が合い、少しばつの悪さを感じながらも毛布を肩下へとずらし、ゆっくりと起き上がった。
それからまた先生をそっと見ると、相変わらず私を見ていたその唇がゆっくりと動く。
もう終わりにしよう、と────。