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水蜜桃の刻
第3章 その唇


「……いいよね、このままでも」


よく洗って、お皿にのせる。

この桃は、果汁がたっぷり。
いつも丸ごとかぶりつく私の手は、食べ終わるとべたべたになるほど。


……少しだけ。
ほんの少しだけのその期待。


ごくりと喉を鳴らし、お皿を手に私は部屋へと戻った。


「あ、桃じゃん」


例の? と聞かれ、どきどきしながら頷く。


「美味しいよね、これ」


手に取る先生。
でも、少し躊躇うように私を見てくる。


「丸ごとが美味しいんだよ、先生。
皮ごと食べる人もいるぐらいなんだって」


心の奥を悟られないように。
何でもないことのように、私も桃を手に取る。

皮は、引っ張ると容易に剥ける。
それを見て、先生が、へえ……と呟きながら真似をした。


ゆっくりと、剥く私。
反対に、するすると剥いていく先生。


あっという間に実だけになって、いただきます、そう言って先生はそれにかぶりつく────。


ひとくち。
……ふたくち。


「……っと」


手のひらに垂れた果汁。
じゅるっ、と音を立てて吸った。


「果汁すごいね」


そしてまた、ひとくち。
腕を伝う新たなそれを、舌を出し、つつ……と舐めとる。


────っ……!


目が離せない。

だって。
……だって、思っていた以上にそれは。


どうしよう。
心臓が壊れそう。


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