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水蜜桃の刻
第15章 その背中
「離してくれる?」
取り乱している私とは反対に、先生は静かで。
「透子ちゃん、離して」
繰り返される言葉さえ、乱れなど全くなくて。
……その、あまりの温度差に
思わずその手を離してしまった。
「……や……」
言葉でする、効果のない引き留め。
「先生……やだ……」
再び歩き出すその後ろ姿。
「お願い……」
言うから。
先生のこと好きって、ちゃんと言うから。
だから終わりたくないって。
だから行かないで。
私をひとりにしないで。
もう、置いていかないで。
そう思うのに、どうして言葉にできないの?
今、言わなきゃもう終わるのに。
わかってるのに。
わたしの口からは、ただもう
「先生っ────……!」
もう、その言葉しか。