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水蜜桃の刻
第16章 覚悟


……立ち止まった私は、空を見上げる。


秋晴れの今朝。
けれど、吹いている爽やかなはずの風をそう感じる心の余裕が今の私にはない。


深く俯いて息を吐く。


しばらくそうした私は
いつまでもこんなところでこんなふうにしていられない──そう自分に言い聞かせるようにして顔をぐっと上げた。

再び歩き始めたものの、何だか変な感覚に襲われる。


「……あ」


眩暈だった。


どうしよう気持ち悪いかも……そう思って咄嗟にしゃがみこむ。

それはどんどんひどくなり、とうとう脂汗まで出てきた。


大丈夫ですか?

誰かが声を掛けてくれる。
答えられず、ただその不快さに飲み込まれていく自分。


救急車呼ぶ? 

遠くから聞こえてくるような言葉に、なんとか手を振って断る。


ああ……でもこれほんとやばいかも────……。


このまま横になってしまおうか──そう思ったときだった。


「……透子?」


はっきりと聞こえた声。


「え? ちょっと大丈夫!?」


あ……この声、加奈ちゃん……そうだ加奈ちゃんだ。


よかった────……。


知ってる人が来てくれた安心感に、そのまま、意識を手放した。



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