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水蜜桃の刻
第17章 その心
中に入ってもらい、リビングへと案内した。
初めてここに来たときと同じ場所に座り、どこか一点を見つめるようにしている先生の姿を、私はキッチンから見る。
カタカタと鳴るケトル。
アールグレイの独特な香り。
すべて、あのときと同じなのに。
空気だけが違う。
無表情で黙り込んでいる先生。
それがこんなにも雰囲気を重苦しくさせている。
「……どうぞ」
先生の前にカップを出す。
私も自分のカップを手にしたまま、やっぱりあのときと同じ場所に座る。
「先生、怒ってる?」
私の言葉に、先生が無表情のまま視線を流してきた。
一週間前、私は先生にメッセージを送った。
『先生の職場の前で、会ってくれるまで待ってます』と。
そこまではしたくなかったけど、他にもう先生に会える手段が思いつかなかった。
『最後にもう一度だけ話がしたいんです』と、そう添えて。
ずっと無視されていたメッセージだったけど、このときは違った。
『わかった。会うよ』
その返事を目にしたときの私の気持ち。
最後のチャンスを手に入れたと思った。
家に私以外誰もいなくなる今日を指定し、来てもらうことにした。
そしてとうとう先生は、やっとこうして私の前に姿を現してくれたというわけで。
「怒ってるよね。
……でも来てくれてありがとう」
視線をお茶に移し、それを口にした先生は、カップをソーサーに戻しながらようやく口を開いた。