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水蜜桃の刻
第17章 その心
「……透子ちゃんがここまでするとはね」
そのまま視線を流してきて、また、右側にいる私を捕らえる。
「でも、OKしてくれて嬉しかった」
「しなかったら本当に、職場の前で待ち伏せでもされかねないと思ったからだよ」
その言葉は、優しさの欠片もない。
思わず唇を噛む。
「……だって、会いたいのに。
先生、電話にもLINEにも返事くれないから」
それでもその視線を逸らさず受け入れれば
「それがどういう意味かなんてわかるよね」
今度は顔を、私の方に少し向けるようにした。
「……でもそんなの一方的すぎる」
「一方的?」
形のよい眉が少し動く。
「私にだって言いたいことあるから。
……先生だけ好きなこと言って、そういうの一方的で……ずるい」
「今さらでしょ」
は、と私の言葉を一蹴するように笑い、その視線をテーブルの上のカップへと流す。
「俺がずるいってわかってた上での関係じゃなかったの?」
ん? と、再び私を捕らえるその目。
ぴりぴりとした空気が部屋中に満ちている。
……先生の言葉にいつも感じていた、有無を言わせないような空気。
先生から一方的に関係の解消を告げられてから、本郷くんと言葉を交わし、もう失うものがないのなら最後にちゃんと自分の気持ちを言いたいと──そう思って、苦しくなりながらもその関係を振り返った私はようやくそれに気づいた。
……それは私の心が勝手にそう思っていたものだと。