この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第17章 その心
だからもう、いい子はやめる。
私が引きずっていたのは10年前の想いだけじゃなかった。
先生の言葉も、ずっと。
本郷くんは私に『憧れを引きずってるだけ』と言ったけれど、そんな簡単な言葉じゃ表せない。
それだけのことが私と先生のあいだにはあった。
確かに、思春期によくあるような、大人のひとへの憧れから始まった想いだったかもしれない。
幼い恋だったかもしれない。
でも、本気だった。
先生は、あのときの私にとってすべてだった。
そう……どんな言葉も先生のだったら受け入れたいと思ったほどに。
すべてを従順に受け入れれば、それほどの想いだとわかってもらえるはずだと思ったぐらいに。
なのに、いい子でいてもそう思ってもらえないんだったら、私は先生の言うことなんかもう聞かない。
思ってること全部言う。
ちゃんと先生に想いをぶつける。
それで想いが届かなくても、もう心の中には何も残さないように。
引きずるものなど一切なくして、先生を本当に吹っ切ることができるように。
そう、今度はちゃんと前に進めるように────。