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水蜜桃の刻
第17章 その心


だからもう、いい子はやめる。


私が引きずっていたのは10年前の想いだけじゃなかった。
先生の言葉も、ずっと。

本郷くんは私に『憧れを引きずってるだけ』と言ったけれど、そんな簡単な言葉じゃ表せない。
それだけのことが私と先生のあいだにはあった。

確かに、思春期によくあるような、大人のひとへの憧れから始まった想いだったかもしれない。
幼い恋だったかもしれない。

でも、本気だった。
先生は、あのときの私にとってすべてだった。
そう……どんな言葉も先生のだったら受け入れたいと思ったほどに。
すべてを従順に受け入れれば、それほどの想いだとわかってもらえるはずだと思ったぐらいに。

なのに、いい子でいてもそう思ってもらえないんだったら、私は先生の言うことなんかもう聞かない。
思ってること全部言う。
ちゃんと先生に想いをぶつける。
それで想いが届かなくても、もう心の中には何も残さないように。
引きずるものなど一切なくして、先生を本当に吹っ切ることができるように。

そう、今度はちゃんと前に進めるように────。



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