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水蜜桃の刻
第17章 その心


やがて聞こえてきた、静かな溜め息。


「……透子ちゃんが俺を好きな理由が全くわからない」


その視線は変わらず、カップへと注がれたまま。


「ただ10年前を引きずってるだけじゃないの?」


本郷くんにも言われた言葉を先生は口にする。
そんなことない……と呟けば


「じゃあ何?
こんな俺のいったいどこを好きなの?」


先生が、ゆっくりと視線を私に向ける。
真っ直ぐに、私を見る。


「俺の何を知ってそんなふうに思うの?」


そう言って、少し笑う。
それは何と言ったらいいんだろう。
……そう、どこか自嘲気味な。


「……知らなきゃ好きになっちゃだめなの?」


勝手に口が動いていた。
だって本当に理由なんかない。
ただ、先生には強烈に惹かれるというそれだけだから。


「確かに私は先生のこと本当は何も知らないのかもしれない………それこそ表面的な部分とか」


続きを少し躊躇い、それでも口にする。


「……身体、とか」


深く吐く息が震えた。
すん……と鼻をすすり、涙を落ち着かせるように小さく深呼吸をする。


「そういうとこしか……知らないのかもしれない」


……実際、そうだとしても私の頭と心は言ってる。
強く、訴えてる。


「でも、昔も……今も、私がこんなにも惹かれるのは先生だけ」


我を忘れるぐらいその存在を欲しいと思うのは。
誰よりも側にいたいと願うのは。
その心の中に自分がいたらどんなに幸せだろうと感じるのは。


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