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水蜜桃の刻
第17章 その心


「私……先生しか好きになれない。
先生の存在だけが私をこんなふうにぐちゃぐちゃな気持ちにさせる。
先生を想うといつも胸が苦しくてたまらなくなる。
……そんな理由じゃだめ?」


呟くように尋ねれば、訪れた、少しの沈黙。


やがて


「……何それ」


は、と先生が視線を逸らして短く息を吐く。
また、表情が崩れた。


「何なのいったい。
透子ちゃんそれ本気で言ってんの?
……だめでしょそんな理由」


考えなさ過ぎ。だから痛い目に遭うんだよ──そう呟く姿はどこか苛々しているように感じる。


「……だったら」


ごくりと唾を飲み込んだ。

先生が感情を出してる姿に高揚してくる。
もっと見たい。もっとその感情を私に見せて欲しい、そう思った。


「だめって言うんだったら、もっと先生のこと教えてよ」


知れば、痛い目には遭わないって言うんなら。
教えてよ、先生。
私に、先生をもっと。


「否定して終わりなんてそんなのずるい────」


手を伸ばす。
先生の腕に触れれば微かにぴくんと反応を見せた身体。
その私の手に視線を移す先生を見つめながら、もう一度口にした。


「ねえ、先生っ……」


そう……先生を、見つめながら。
だってどんな些細な感情の乱れにさえも、気づきたい。


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