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水蜜桃の刻
第17章 その心
……少しは、先生の心に何か──良くも悪くも、何か感情が生まれてきてくれているんだろうか。
そんなふうに思いながら、それでもやっぱり何も言おうとしない先生から、視線をキッチンテーブルの上のカップに戻した。
「……考えてみたらいい子になれるはずなんてなかったんたよ。
だって私は家庭教師の先生におねだりして抱いてもらうような子だったんだから」
口にするたびに、また新たな気づきが私の中に生まれてくる。
そう、私はそんな子だった。
先生に欲情して、ひとりでばかみたいに盛り上がって、その後始末を先生にも押しつけるような、そんな人間。
「……もともと、そういう悪い子だったんだから」
シュンシュンと、沸きつつある音に変わっていくケトルを見つめながら私は続けた。
「先生はよく自分のことをずるいって言うけど、そんなの私も同じ。
……なかったことのようにすれば、先生とあと半年はまだ会えるって思ったんだもん。
きっと先生はやりづらかったはずなのに……私に合わせてくれて。だから全然ずるくなんかなくて。
……全部、私が────」
「────な子だと思ったんだ」
……え?
自分の言葉に被せるようにして何か口にした先生のその声はよく聞こえなかった。
聞き返そうとしたとき、カタカタとケトルの蓋が鳴り、慌てて火を止める。
しん、と──途端に何の音もしなくなった。
「……聞こえなかった」
なに? と先生を見れば、深い溜め息が一度大きく吐かれた。
だから──と
「健気な子だと思ったんだよ」
そう、口にする。
「え……」
それは、私のこと────?