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水蜜桃の刻
第17章 その心
思わず、リビングに出た。
先生を斜め後ろから見つめる。
また深く息を吐き、背もたれに寄りかかるようにした先生は、私の方は振り返らずに上方に視線を投げた。
「……面倒なことになったなって正直思った」
とうとう、先生の口が開かれた。
いったい何を言うつもりなんだろうと、心臓が早鐘を打ち始める。
「あまりに透子ちゃんが必死だったから……だから一度だけ、って約束した上で抱いたけど」
「先生……」
その口から語られるのは、10年前の先生の心。
「……たぶん約束は守られないだろうなとも思った。
また願われたらそのときはもう家庭教師やめようって決めてたよ」
なのにさ、と先生は溜め息のように言う。
「全然なんだもんな」
「え……」
「全然、そんな素振りを見せない。
それまでと同じように真面目な生徒のまま。
もちろん、戸惑ってるのは伝わってきてたよ。けどそれさえ必死で隠そうとしてさ。
何そんなに一生懸命に俺との約束守ろうとしてんの? 何なのこの健気な子、って。
……そんなふうに感じてたよ」
「先生……」
その後ろ姿を見つめながら、思わずその呼び名を口にした。
私、そんなふうに思われてたの?
先生はそんなふうに私を見てくれてたの?
でも────。
首を振って、否定する。
だって、私は本当は……。