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水蜜桃の刻
第17章 その心
「……いい子でいたら先生に好きになってもらえるかもしれない、って……そういうずるい考えも私にはあったよ。
だからそんな……健気だなんて、そんなこと」
ない、そう続けようとしたけれど
「たとえそうだったとしても、あのときの俺はそう思ったって話」
先生はそれを遮る。
ちら、と少しだけ振り返るようにして私を見た。
そしてすぐにその視線は前へと戻されて。
「……最後の日もそう。
約束を守りきってくれた透子ちゃんに何かしてあげたいと思った。
最後なのにわがままひとつ言わないから……だから何が欲しいか聞いたら、ただ忘れないでいてくれればいい、とか。
何それ? そんなんでいいの? って……ほんと何て言うか、どこまでも健気な子に思えて」
ふ……と困ったように吐かれた息。
「契約が終わったときは正直ほっとした」
「え……」
「透子ちゃんからこれで離れられるって」
「……先生……」
また、先生が振り返る。
今度は私を見たまま
「言っただろ? 俺は面倒なのが嫌いだって。
その頃にはもう時々セックスする相手がいれば充分だと思ってたから、そういう関係を求めてる子しか相手にしてなかった。
……だから、先生と生徒じゃなくなってもこの子はだめだって思った。
俺なんかが手を出していい子じゃないって」
口にされたその言葉に、先生の視線を受け止めながら首を振る。