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水蜜桃の刻
第17章 その心


「約束がなかったら、私のことなんて何も……?」


知りたい。 

『俺なんかが』という言葉の中にある何かを。
そう思った、感情の在処を。


「ねえ先生……少しも?」


そっと、近付く。
先生が私を見つめてる。
その目を逸らさずに、私は先生のもとに。

手を伸ばせばもう届くその距離。
立ち止まり、願った。


「先生」


どうか、聞かせて欲しい。


「……私のこと、少しぐらいは思い出してくれてたの……?」


あの言葉の意味を、ちゃんと。


そっと触れたその腕。
先生がそこに視線を落とす。
逃げずに。
私を拒まずに、そこをじっと見てる。


そして


「……約束してなかったら、なんてわからない」


やがてぽつりとそう口にする。


「その約束はすでにあったものだから。
透子ちゃんを思い出すのは約束したからなのか、そうじゃなくてもそうなるのかなんて考えたこと……ない」


それもそうか……と納得した私は自分の質問の可笑しさに気づき、そっと先生から手を離す。
そしてそのまま引こうとしたその手が突然掴まれた。

驚いて、思わず手を見て、それから視線を移した。
私たちが触れ合ってる部分から目を離そうとしない先生に。


「……っ」


どくどくと早鐘を打ち始める心臓。


……何?
先生……この手は、なに────?


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