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水蜜桃の刻
第17章 その心


「……せっかく逃がしてあげたのに」


──え?


先生の言葉に、耳を疑う。


何?
……逃がしてあげたって、先生、今そう言った?


「っ、え? 何、それ……」


理解できずに先生を見つめる。
ようやく顔を上げ、私を見る先生。
射るようなその視線に私はたじろぎ思わず2、3歩後ずさった。

離されない腕。
先生がそのまま立ち上がる。


「先生……」


ごくりと唾を飲み込み、その呼び名を口にしたそのときだった。
腕をぐいっと引かれたかと思ったらそのまま壁に背中をだんっと押しつけられる。


「痛っ……」


掴まれた腕も、一緒に。
まるで片手だけ貼りつけられたかのように。


「……せん、せ……」


心臓の鼓動がこれ以上ないほどの早さで鳴っている。
私をじっと見下ろす先生。
その目の奥が、ゆらりと揺れる。


「そんなに知りたい? 俺の事」


低く、落ち着いたその声色は変わらないのに。
表情も、いつも通りなのに。
至近距離から香るその匂いさえ、もう嗅ぎ慣れたものなのに。


「だったらもう全部答えてあげるよ。
……俺に何が聞きたいの」


この、今の先生から感じるさっきとは違う雰囲気は


「何が知りたいの」


いったいどこからきているのか────。



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