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水蜜桃の刻
第17章 その心
「……まさか再会するとは思わなかったよ」
掴まれ、壁に押しつけられている手首のその部分の熱さ。
その熱がどんどん広がって、手の平まで汗ばんでくる。
「10年前──俺は透子ちゃんと離れてほっとしたはずなのに。
なぜかそのとき……また会えた、そう思った」
そう……俺はそんなふうに思ったんだ、と。
私から視線を逸らさないまま、そのときを思い出すような先生の表情、そして口調。
「そして、知りたくなった」
「え?」
「透子ちゃんは俺との再会をどう思ってるのか。
俺と同じ気持ちなのか、それとも違うのか」
ぐっ、と掴まれた手首に少し力が加わる。
「……っ……だから先生、私の番号は聞かなかったの?」
はっと、そこに気づく。
あれはそういう意味だったの?
私が連絡を寄越すだろうという確信のもとに、だったんじゃなくて、わからない私の気持ちを知りたいがための。
「……どうして」
心臓の鼓動がまた早くなる。
先生の気持ち。
先生が私を試した理由。
ぐるぐると頭の中で回っている疑問符。想像。そして期待。
「どうして知りたかったの?
……私が先生と同じ気持ちだってわかったらどうするつもりだったの?」
先生から目を逸らさずに私は言った。
ちゃんと聞きたかった。
それを。
ようやく先生がすべてを話そうとしてくれてる。
やっと私たちはちゃんと話ができるんだ。
だから私はもう──退かない。