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水蜜桃の刻
第17章 その心


「透子ちゃんの言葉……表情。
そして熱っぽく俺を見るその目」


くっ、と顎で示され、思わず目を逸らし俯く。


「まだ俺のことが好きなの?
あれから10年も経ってるのに?」


まるで今、それを聞かれているかのようだった。


「たった一度寝ただけの俺を?」

「別にそれで先生を好きになったわけじゃない……!」


きっ、と顔を上げて、揶揄するような言葉を口にした先生に抗議する。
先生は私の目を逸らさずに受け止め、手首への力をさらに込めてきた。


「……いった……」


思わずしかめた顔。
途端に顎を掴まれた。
先生のもう片方の手で。


「俺がまだ好きって全身で訴えておきながら。
……それなのに何? あれ」


あくまでも冷静な先生の口調。


「何なの? あの男」


くっ、と顎を上げさせられる。


「……っ、だからっ……ただの同僚、って────」


私を見下ろす先生の目。
見たことのない色を感じた。
揺れてる。その奥がゆらゆらと。
すべてが冷静に見えるのに、そこだけが違う。
まるで、火にも似た、それ────。


「ただの同僚が、俺をあんな目で見る?
敵対心丸出しにして……ガキが」


吐き捨てるような口調。
ぞくり、と何かが身体を駆け抜ける。
痺れていく……全身が。

先生の感情を感じる。
触れられた場所から。
その目から。
……その声からさえ、ぴりぴりと感じさせられる。


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