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水蜜桃の刻
第3章 その唇
「先生、おまたせ」
ドアを開け、部屋に入った。
座っていた先生に、おしぼりを手渡そうとしたとき
「あっ」
触れた指先に過剰に反応してしまった私は、それを床に落としてしまった。
「ごめんなさい!
新しいのすぐ持ってくる!」
拾いながら、言う。
もう……本当に何やってるの私────。
「あ、大丈夫大丈夫。
じゃあ洗面所借りていいかな?
拭くより洗った方が確実だしね」
何でもないようにフォローしてくれる先生の言葉に感謝しながら、私はどうぞ、と伝えた。
「ありがとう」
先生はそう言いながら立ち上がり、ん? と何か気づいたかのように私の顔を覗き込む。
「顔赤いけど……どうしたの?」
「え!?」
指摘された私の心臓は痛いほど波打った。
「何でもない……!」
顔の前で両手を交差するようにして振る。
「でも熱とかあったら」
「ないよ! ないです!」
必死で否定するも、伸ばされてきた先生の手。
びく、と身を竦ませたそのとき。
ひや、と額に当てられた先生の大きな手。
「────っ……!」
やめて。
心臓が、止まる。
息をするのも忘れ、目をぎゅっと閉じたまま、その感触にごくりと喉を鳴らしてしまった。
「……ん。熱はなさそうだね」
離された手に、動揺を必死で隠して
「だから大丈夫だってば、先生!
……早く行ってきて! ね!」
その背中をドアの方へと押す。
おとなしく部屋を出て行った先生。
私はひとり、そこに残されて。