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水蜜桃の刻
第17章 その心


「……結局、離れたのは先生の方だったじゃない」


ぽつり、と口にすれば


「……だってそれは、泣いてたから」


そう呟かれ、え……? と思わず聞き返す。


「泣いてたでしょ? あのとき」


あのとき。
……それは、最後のとき?
      
確かに、見られたのはわかっていた。
でも何で? どうしてそれで?


「透子ちゃんは自分からは離れていかない。
でもこの関係にそうやって苦しんでる。
それでもきっとこのまま続けていこうとするんだろう。
……ならもう俺から切るしかない、そう思った。
俺から解放してやらないと、きっといつか……透子ちゃんは壊れるって」


ああ……だから────。


さっきの先生の言葉を思い出す。


『せっかく逃がしてあげたのに』


それは、こういう意味だったんだ。


こみ上げる、感情。


「……っ」


たまらず、俯いた。


先生のそれは優しさだった。
すごく、すごく不器用な。
突然の別れは、私を思ってのことだった。


……でも。


ごくりと唾を飲み込んだ。


ねえ、先生。
そんなふうに私を思ってくれてたんだったら。

……だったら。
離れるという選択肢じゃなくて。
受け入れるというそれを、どうか。
そう……今からでも選んでくれないだろうか。

私のことを、選んでくれないだろうか────。



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