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水蜜桃の刻
第3章 その唇
なんで。
なんで、ここで着替えようなんて思っちゃったんだろう。
ほかの場所に行けばよかった。
う……と、感情の高ぶりと共に漏れてくる嗚咽。
自分の声にさらに煽られるように、恥ずかしさと浅はかさに、泣いた。
来ないで。
先生、ここに戻って来ないで。
だって私、どんな顔したらいいのかわからない────。
なのに。
やがて聞こえてきた、コンコンとドアをそっとノックする音。
「……開けるよ?」
返事をしないまま、数秒。
ドアが開く音がした。
必死で、嗚咽を止める。
それでも、堪えきれない息が。
時折、しゃくりあげてしまう声が。
「本当にごめん────」
ぎっ、とベッドが鳴る。
先生が近くに座ったのか……タオルケット越しに私の背中に触れてきた。
思わず、びくっと反応してしまって。
「まさか、着替えしてたなんて思わなかったから……」
そんなの、当然だ。
先生が謝ることなんか全然ないのに。
全部私のこの邪な考えが……想いが、原因なのに。
「……ごめん」
またそう繰り返され、私はタオルケットの中で首を振る。
先生からは見えやしないのに。
「でも……なんで突然────」
先生が、そこまで言うと言葉を切る。
当然だ。
そう思うの、当たり前。
でももう私の頭ではうまい言い訳なんか思いつく訳がなくて。
「……ごめ……なさ……」
ただ、小さく途切れ途切れに答えることしかできない。
ぎゅっ、と手の中のそれを握る。