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水蜜桃の刻
第19章 その言葉


「……手放したくないなと思ってたよ」


そんな言葉が、耳に落とされる。
え? と思わず顔を上げようとしたら、先生の手が私の頭をそっと制し、それをさせまいとする。
黙って聞いて欲しいということだろうか──そう思い従うと、抵抗を感じなくなったことに気づいたのであろうその手は頭からそっと離された。


「早く俺を嫌いになればいい。呼び出しても来なくなればいい、って思いながらいつも連絡してた」


それは、あのときのことだろう。
先生が『酷い扱いをした』と口にした、身体だけで繋がっていたような時期。

思い出していたら、再び頭に戻された手に、優しく撫でられる。


「でも呼ぶ度に毎回、透子ちゃんは来て……それにどこかほっとしてる自分もいたんだ」


……ほっとした?


「……なんで……?」


私はそのままの体勢で、声だけでそう問う。


「なんでほっとしたの……?」


私は、先生の心臓の音が少し早まっているのに気づいた。
呼応するように、私の心臓の鼓動も早まっていく。


「……できれば手放したくなんかない──抱けば抱くほどそんな気持ちが大きくなっていくことに自分でも気づいていたから」


先生の、深い溜め息。


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