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水蜜桃の刻
第20章 蜜刻
先生の本当の気持ちをたくさん聞かされた。
私の家でも、ここでも。
先生は自分を狡いとか、自分勝手とか言っていたけど、その言葉の端々に感じたのは私への想い。
そう、それらは私にとってはどうしようもなく嬉しい言葉ばかりだったことを先生はきっと気づいていないのだろう。
まさかそんなに私のことを考えてくれていたなんて知らなかった。
数時間前まで、私はただのセフレ扱いなのだろうと思っていただけに、聞かされた言葉のひとつひとつがもう、たまらなかった。
目を閉じて、余韻に浸る。
『俺と、付き合って』
『好きだよ、透子が』
そんな直接的な言葉も。
『退かなくて、いいんだね?』
『もう、逃がしてあげられないよ?』
そんな、ぞくりとするような言葉も。
身体の芯からとろけてしまったかのような、あのセックスも。
すべてが、本当にたまらなくて。
「は……」
胸が疼く。
手の中のそれをテーブルに置き、そのまま両手で自分を抱きしめる。
……こんなに幸せでいいんだろうか、とそう思えばまた泣けてきてしまう。
先生の心が欲しかった。
ずっとずっと、欲しかった。
私の中にずっとあったその気持ち。
それがまさか報われるときが来るなんて、思ってもいなかった。
「……夢みたい」
何度思い、何度口にしたかわからなくなったほどの言葉を、私はまた呟く。
まるでそれしか言えなくなったかのような自分がおかしくて思わずくすりと笑ってしまったとき──バスルームのドアが開く音がした。