この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第20章 蜜刻
「じゃあ最初からそういうのが面倒だったわけじゃないんだね……」
独り言のように呟くと
「……告られて、まあいいかなって思ってOKしたことはあるよ」
先生が、それに答えてくれた。
「じゃあいつから面倒になっちゃったの?」
え? と呟きを零しながら、左手に持ったままだったビールをぐいっと飲む。
それから、テーブルに缶を置いた。
私もその隣に缶を置き、また少し、先生の方に身体を寄せた。
「……だから、それで面倒になった」
溜め息と共に先生が口にする。
目で続きを求めれば
「なんか……他の女の子と話してるだけで不機嫌になったり、メールの返事すぐ返さなかっただけでずっと文句言われたり、休みも束縛されたり。
そういうのがなんかいろいろとほんと面倒だなって思ってさ。
俺、ひとりの時間も好きだったりするから」
苦笑しながら、私は絡め合っている指先に、きゅっと力を込める。
先生も同じように返してくれた。
「もう付き合うの無理だと思って別れようとしたら、ひどいだの何だのってかなり言われたけど」
「……そうなんだ。だからもう、彼女はいらないって?」
ふうん……と、私は口にして、それから唇をきゅっと噛んだ。
「透子?」
そんな反応だけで黙り込んだ私に先生は何を思ったのか、顔を覗き込むようにしてきた。
「……俺、何かまずいこと言った?」
少し困ったような顔をする先生。
私は首を振る。
自分が知りたかったことに先生は答えてくれただけ。
だからそれについてどう思ったかというよりは────。