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水蜜桃の刻
第20章 蜜刻


「じゃあ最初からそういうのが面倒だったわけじゃないんだね……」


独り言のように呟くと


「……告られて、まあいいかなって思ってOKしたことはあるよ」


先生が、それに答えてくれた。


「じゃあいつから面倒になっちゃったの?」


え? と呟きを零しながら、左手に持ったままだったビールをぐいっと飲む。
それから、テーブルに缶を置いた。
私もその隣に缶を置き、また少し、先生の方に身体を寄せた。


「……だから、それで面倒になった」


溜め息と共に先生が口にする。
目で続きを求めれば


「なんか……他の女の子と話してるだけで不機嫌になったり、メールの返事すぐ返さなかっただけでずっと文句言われたり、休みも束縛されたり。
そういうのがなんかいろいろとほんと面倒だなって思ってさ。
俺、ひとりの時間も好きだったりするから」


苦笑しながら、私は絡め合っている指先に、きゅっと力を込める。
先生も同じように返してくれた。


「もう付き合うの無理だと思って別れようとしたら、ひどいだの何だのってかなり言われたけど」

「……そうなんだ。だからもう、彼女はいらないって?」


ふうん……と、私は口にして、それから唇をきゅっと噛んだ。


「透子?」


そんな反応だけで黙り込んだ私に先生は何を思ったのか、顔を覗き込むようにしてきた。


「……俺、何かまずいこと言った?」


少し困ったような顔をする先生。
私は首を振る。
自分が知りたかったことに先生は答えてくれただけ。
だからそれについてどう思ったかというよりは────。


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