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水蜜桃の刻
第20章 蜜刻
「……もしかしたら私もそういうことしちゃうかもしれないよ?」
「え?」
先生の目に、そっと視線を合わせる。
「先生が面倒だって思ったようなこと」
私も、するかもしれない。
先生が他の女の人と話してたら焼きもちをやいちゃうかもしれない。
休みのたびに一緒にいたいと願ってしまうかもしれない。
連絡がつかないと不安になって、先生にどうして返事くれないの? って不満を口にするかもしれない。
……私だって、そうしちゃうかもしれないんだ。
だって、現に、あのとき。
「私、先生と連絡取りたかったとき、LINEも電話もしつこくしたから」
「あれは────」
何か言いかけた先生の言葉にかぶせるように続けた。
「だからきっと、私、またそういうふうになるかもしれないし、そしたら先生……私のこと面倒って」
そこまで言ったとき。
先生が、絡まっている指から逃れるように手を引いた。
「……っ」
途端に心臓が跳ねる。
なくなった、手のぬくもり。
「透子」
でも、次の瞬間感じた、ふわりと身体を包み込むもの。
そう、先生の腕に私は抱きしめられていた。
「思わないよ」
低く、耳に心地よいその声が、耳元でそう囁いてくる。
「思わないから……そんなこと」
そして、ごめん……とまた、先生が囁く。
「俺がひどく振り回したせいで」
ふるふると首を振りながらも、その言葉にほっとした私は、こくんと唾を飲み込み、そして続けた。