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水蜜桃の刻
第20章 蜜刻
「……じゃあ先生、ちゃんと言ってね?」
ん? と目が、その意味を問うてくる。
「先生に、面倒だって思われたくないもん。
だから、私のこといやになる前にちゃんと言って?
私、気をつけるようにするから」
「透子」
私の名前で遮られ、直後。
「それは俺のセリフでしょ?」
そう続けてきた先生が、私の身体を自分から少し離す。
苦笑いを浮かべたその顔。
「……え?」
思わず先生を見つめれば
「俺だって、透子にそういうことするかもしれない」
そんなふうに、静かに口にされた。
「……先生が?」
戸惑いを隠せない私の頭を優しく撫でるようにして、そうだよ、と呟く先生。
「俺だってもうわかるよ、そういう気持ち。
……ちゃんとわかってると思う」
「先生……」
「好きだから不安になるとか、嫉妬とか、束縛とか……なんか、やっとわかったから。
透子を好きになって、ようやく」
静かなその告白が私の感情を揺さぶる。
じわ……と目が潤んでくるのがわかった。
「……結局、俺がちゃんと好きになった相手って透子だけなんだなってそんなふうにも思ったよ。
こんないい年して、恋愛経験も浅くて……なんか格好悪いな、俺って」
はは、と自嘲気味に笑う先生の顔が滲んでくる。
首を振れば、溜まっていた涙がこぼれた。
透子、と呟く先生の指が、頬を拭うようにしてくれる。