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水蜜桃の刻
第20章 蜜刻
「……そんなこと……っ、ない……」
先生は格好悪くなんかない。
今までの先生より、今の先生の姿の方が私は何倍も好きだった。
私に心を開いてくれた、先生が格好悪いというその姿が……どの姿より、私は。
「……教えてくれる?」
え……? とその顔を見つめれば。
「透子が、俺の言動に傷ついたときはちゃんと」
「先生……」
「俺、ちゃんと向き合うようにするから。透子がしてくれたように。
今までの俺を理由に逃げるなんてもうしない。だから」
……また、涙が落ちた。
本当に、私に真摯に向き合ってくれようとしている先生が、嬉しくて。
どうしようもなく、愛おしくて。
たまらなくなり、私はその身体に抱きつく。
ありがとう、って言った。
うれしい、って。
先生が大好き、って──そう言った。
何度も。
……何度も。
私を抱きしめ返してくれる先生の身体。
先生の、その匂い。
「透子」
私の名を呼ぶ、先生の声。
耳から入り込むそれは、私の身体の中を駆け巡るようにして、心をも震わせる。
誰のよりも甘く響く……私の、大好きな声。
「……名前、呼んで」
うっとりと、ここにある先生の存在のすべてに浸っていた私の耳に届いた、その言葉。
「呼んで、透子」
……名前。
先生の、名前。
その首にぎゅっとしがみつく。
先生の耳元に唇を寄せた。
そして、そっと……忍、と囁いた。