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水蜜桃の刻
第21章 epilogue
「……甘い」
噛めば溢れる、桃の蜜。
味わいながら先生を見れば、桃で濡れた指先を舐め、小さくリップ音を立てながら離す。
そのままウェットティッシュのボックスから一枚取り出して、指先を拭く。
「……愛してるよ」
不意に、口にされた。
視線は指先に注いだままで。
それから、目線だけを私に流し
「ちゃんと」
そう、付け加える。
「……っ」
途端に、口の中の蜜が、甘さを増した気がした。
そんなことあるわけないのに、そんな気がした。
……その甘さをゆっくりと味わうようにして、それから、飲み込む。
それから、うん、と先生に微笑んだ。
「……なんか、思い出しちゃう」
そうして、少し間を置いて発したその呟きに、先生は、何? と視線だけで問いかけてくる。
「毎年ね、この季節は思い出すの……いろいろと」
そう続ければ、まざまざと浮かんでくるその情景。
あの、先生と交わした一度きりの約束。
そして、1年前の再会。
私の中の、それらの記憶。