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水蜜桃の刻
第3章 その唇


そして。


「……怒らない……?」


呟くように、聞いた。


「怒られるようなことがしたいってこと?」


そんなふうに返され、また私はわからなくなる。
だってこれはきっといけないことだから。
それだけは、わかるから。


「……わかった。怒らない。
だからいいよ、言って」


再び黙り込んでしまった私を、先生はそう言って口にするようにまた促す。


「先生……」


私を見ている先生。
いつもの眼鏡越しじゃないその目。
目が合うと、すっ……と、少しだけ逸らされる。


それが、何だか。
何だかとても悲しくて。


見て。
先生、私を。


そう思いながら、口にしていた。


「……先生に……さわりたい……」


さわりたい。
……先生に、さわられたい────。


そうだ。
それが私の気持ち。


頭の中にだけあった、先生から愛されてる自分の姿。
現実にはあり得ないと思っていたから、いつも想像だけで自分を満足させていた。


でも。
こんな機会、二度とない。
あわよくば、と期待していたのかもしれない。

そう……期待して、ひとりで興奮して、こんなに身体を疼かせてしまった。


そして、それは、今も。
この初めて味わうぎりぎりの危うい空気に、私は────。


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