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水蜜桃の刻
第6章 予感
──そのときだった。
ピンポーン……と呼び鈴が鳴ったのは。
平日の午後。
家には私ひとりだけだった。
両親は仕事で、おじいちゃんは週に2回デイサービスを利用してて、今日もそれだったから。
「配達かな……」
呟いて、立ち上がる。
そういえば、ネットで注文していた商品の発送メールが昨日届いてたっけ。
ドアにカメラがない家だから、玄関に出ないと誰が来たかわからない。
「はーい」
私はドアを開け、そこに立っているそのひとを見た。
──え?
戸惑った一瞬の後、フラッシュバックしてきた映像。
蜜が垂れる手のひら。
音を立てて吸うその仕草。
舌先で辿る蜜の跡。
……甘く甘く、濡れたその唇。
私の身体をなぞるその指。
悪い子だな、と囁くその声。
身体の奥に感じるその律動。
──あのときの感情が、一気に私の頭を支配した。
欲情した自分。
欲情された自分。
……っ、先生────……。
どうして、ここにいるの?
……どうして、私の目の前にいるの?
記憶はいつかは静かに消えていくはずだった。
なのにまさか──こんなふうに先生に再び会うなんて。
もう思い出せなくなっていた欠片さえ、すべて一気に甦ってくるかのように、私の中を生々しく満たしていく16歳のとき経験した一度だけのそれ。
呆然としながら先生を見つめたものの、目が合った瞬間、反射的に俯いてしまった。
激しい鼓動が私を襲う。