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水蜜桃の刻
第6章 予感
なに?
なんなの?
どういうこと?
頭がパニックになっていて、先生が話してる言葉なんて、もう全然頭に入ってこない。
何かの言葉と共に、差し出された名刺。
俯いたまま手に取り、それを見た。
……やっぱり、それは先生の名前。
「……英会話、教室……?」
名前の脇にあったその教室名。
私でも知っている、有名なところだった。
「はい。今度こちらにもオープンさせていただくことになったんです。
それで、ご近所の方に、こうしてご挨拶に」
──え……?
なんだか、その違和感に私は今更ながら気付いた。
ずいぶん他人行儀な話し方。
……もしかして、先生は私に気づいてないの?
「こちらがパンフレットですけど……」
そして、鞄から出した書類。
受け取った私に、中を開くように言う。
従った私の、手の中のそれ。
あの綺麗な指先が、説明をしながら、写真を……文面を、なぞる。
ちら……と、その顔を盗み見た。
「……というわけなんですよ」
突然顔を上げられ、目が合う。
逸らせなくていた私に、白い歯を見せてにこりと笑いかけてくる。
「────っ……」
たまらずまた、私は俯いた。