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水蜜桃の刻
第6章 予感
……やっぱり。
やっぱり、先生だ。
あのときより少し印象は変わったけど、それでも間違いなく先生だった。
今はもう……32歳?
大人な雰囲気を漂わせながらも、その笑顔はあのときのまま。
動悸が、おさまらない。
ねえ、先生。
私に気づかないの?
長いあいだ会ってなかった。
長かった髪はショートボブになり、あのときより少し痩せ、幼く見せていた丸顔ももうそうではなくなった。
化粧も覚え、私の見た目は確かに変わったかもしれない。
……でも。
でも私のこと忘れないって……そう約束してくれたよね? 先生────。
唇を、ぎりっと噛む。
気づいてよ、先生。
私は一目でわかったのに……ねえ、先生は何で気づいてくれないの?
……ううん。
気づかないならもうこのまま。
このまま、私も気づかないふりをした方がいい。
そうしたほうが、きっと。
そんな気持ちが、ぐるぐると頭の中で絡み合いながら回り続ける。
だって。
さっき、顔を見た瞬間、一気に10年前に引き戻されてしまったかのような感覚に襲われた。
懐かしいとか、そんな生やさしい感覚じゃない。
少しずつ薄れていくだけに違いなかったあのときのその記憶。
あんなにも鮮明に、先生を先生だと認識した瞬間、蘇った。
どうしよう。
私はどうするのが正解なの?
どうすればいいの?
ねえ、先生。
私、どうしたらいいの────?