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水蜜桃の刻
第7章 その指先
──そのとき。
カタカタとケトルの蓋が鳴り、沸騰を知らせた。
はっと我に返り、慌てて火を止める。
そのままちらりと先生を見ると、先生も私を見ていた。
目が合うとそのまま、ふっと優しく笑いかけてくる。
──っ……!
どくどくと早くなる鼓動。
それでも、平常心を装い笑みを返した。
すぐに視線をそっと逸らし、お茶をいれるために手元に集中する。
あの笑顔は変わってない──そう、思いながら。
「どうぞ」
先生の前に差し出したカップ。
ありがとう、と口にして、先生はカップの取っ手を掴んで持ち上げた。
「……覚えててくれたんだ」
口元に笑みを浮かべながらそう続けて、カップを傾ける。
それを見ながら私も自分のカップを手に椅子に座った。
先生と向かい合う形で。
「美味しい」
かちゃっ、と音がしてソーサーに戻された先生のカップ。
揺れている、きれいなその琥珀色────。
「……透子ちゃん、結婚したの?」
突然投げかけられた私への問い。
思わず、カップから先生へと視線を移す。
「え?」
結婚? 私が?
どうして──そんな表情でもしていたのだろう。
先生は続けた。
「だから今はここに住んでるってこと?」
「あ、ううん……!
ここ、その……もともとおじいちゃんちで」
首を振り、答える。
「数年前におばあちゃんが亡くなって、おじいちゃんがひとりになっちゃったから。
だから、ここリフォームして、みんなで引っ越してきたの」
「……そうだったんだ」
こくんと頷いて、そして続けた。