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水蜜桃の刻
第7章 その指先
先生に対するどきどきに、慌てたときのどきどきも合わさって、もう心臓がおかしなことになっていた。
……もう。なんで?
冷静になりたいのに、先生の言動ひとつひとつに揺さぶられている自分の心。
どうしてこんなに意識してしまうの────。
思わず、ぎゅっと目をつぶる。
「……あ」
そんなことを考えていると、先生が何かに気づいたかのように声を発した。
「え?」
振り向いて先生を見ると、私から少しずれているその視線。
「……これ?」
私のしゃがみこんでる場所のすぐ近くにあった、桃がたくさん入った箱。
……先生、なんでこれに気づくの。
つい、そんなことを思ってしまった。
ただでさえ今、私はこんな状態なのに……何なんだろう。心の落ち着く暇がない。
気づかれないように小さく溜め息をつきながら、ひとつ手に取り立ち上がった。
「……先生、この桃好きだったもんね。
ちょうど届いたばかりなんだよ?」
目を逸らしたまま何でもないことのように口にして、手を洗い、棚からお皿を出した。
その皮をつまんで剥いていく。
それでもとりあえずやることができた──そう思った私はそれに集中することで、先生から……先生に乱された感情から意識を逸らそうと試みた。
甘い匂いが漂う。
瑞々しいその果実は皮を剥くだけで蜜が溢れた。
私の手を濡らしていく。
手首まで、垂れていく感覚。
……やだ、これって。
思わずどきりとしたときだった。