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水蜜桃の刻
第7章 その指先
「……なんか、いろいろ思い出すよね」
そんな状態の私に突然先生は言った。
頭の中でぐるぐるとしていた10年前のことを指しているとしか思えない言葉に、私はもう動揺を隠し切れなくて。
「……っ!」
鋭く走った、痛み。
手を滑らせてしまい、左手の指先を傷つけてしまった。
呆然としながら、そこを見つめる。
「え……切った?」
先生の声がした。
見つめたままの指から、じわじわと赤い血が滲んでくる。
「つ……」
思わず傷口を咥える。
血の味と、甘い味が一瞬混ざった。
先生が動いて、キッチンのこちら側に入ってくる。
「洗った方がいいって」
私の左側に立つ。
咄嗟に咥えていた指を口から離すと、先生はそのまま左手首を掴む。
心臓が、跳ねた。
「どこ?」
その言葉に促されるままに先生に傷ついた指を差し出す。
手首にあった先生の手は、その指へと流れる。
また少し、血が滲んだ。
でも私の視線はすぐに、傷口から先生の手へと流れる。
私の指を掴んでいる、その手に。
「……そんなに深くなさそうだけど」
先生がそう呟いて、水道のレバーを操作した。
蛇口から流れる水に、私のその指をあてる。
「痛っ」
しみるような感覚に指を引きかけたけど
「我慢して」
先生はそう言って私の指を離さなかった。
気づけば、そのワイシャツの袖口が濡れそうになっている。