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水蜜桃の刻
第7章 その指先


「先生、大丈夫だから」

「ん」

「ひとりでやれるから」

「……ん」


そう答えながらも、その手が離される気配はない。


「ねえ先生、袖────」


濡れちゃうよ、そう続けようとしたのに。


「だって俺があんなこと言ったからでしょ?」


突然、そんな言葉を被せられた。


「────!」


一気に頬が熱くなる感覚。

私の顔は今、絶対赤い。
こんなの、動揺がバレちゃう。

顔を隠したいのに先生は指をまだ離してくれない。


「…………っ」


たまらず、俯いた。

先生の身体がすぐ近くにあることに今更ながら気づく。
微かな香りを感じた。


……先生の、匂いだ。


意識して、高鳴っていく鼓動。
どくんどくんと耳にうるさい。


やだ……もう、胸が壊れそう────。


たまらず、ぎゅっと目を閉じたそのとき、すぐ近くから聞こえた着信音。

先生が、ごめん、と呟いて私から手を離した。
タオルで濡れた手を拭い、ポケットから取り出したスマホ。


「はい、片桐です」


爽やかな、仕事用の声だった。
さっきの……玄関先で私に気づく前の、声と口調だった。


「……あ、はい。わかりました」


リビングの方に戻りながら、話し続ける先生。
手帳を取り出し、何か書き込んでる。


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