この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第7章 その指先
「先生、大丈夫だから」
「ん」
「ひとりでやれるから」
「……ん」
そう答えながらも、その手が離される気配はない。
「ねえ先生、袖────」
濡れちゃうよ、そう続けようとしたのに。
「だって俺があんなこと言ったからでしょ?」
突然、そんな言葉を被せられた。
「────!」
一気に頬が熱くなる感覚。
私の顔は今、絶対赤い。
こんなの、動揺がバレちゃう。
顔を隠したいのに先生は指をまだ離してくれない。
「…………っ」
たまらず、俯いた。
先生の身体がすぐ近くにあることに今更ながら気づく。
微かな香りを感じた。
……先生の、匂いだ。
意識して、高鳴っていく鼓動。
どくんどくんと耳にうるさい。
やだ……もう、胸が壊れそう────。
たまらず、ぎゅっと目を閉じたそのとき、すぐ近くから聞こえた着信音。
先生が、ごめん、と呟いて私から手を離した。
タオルで濡れた手を拭い、ポケットから取り出したスマホ。
「はい、片桐です」
爽やかな、仕事用の声だった。
さっきの……玄関先で私に気づく前の、声と口調だった。
「……あ、はい。わかりました」
リビングの方に戻りながら、話し続ける先生。
手帳を取り出し、何か書き込んでる。