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水蜜桃の刻
第8章 熱感


『透子ちゃん』


何度も呼ばれた私の名前。
10年振りに聞いた、あの声での『透子』──それは私の心をひどくときめかせていた。

おなかの下が、きゅうっと切なくなる感覚を覚え、私は戸惑う。


「先生……」


ちょうど、考えていたときだったから。
あのときを思い出していたときだったから。
そんな状態での、予期せぬ再会だったから。

先生の前ではなるべく平常心でいたかった。
結局それは難しかったけれど、そうあろうとしたその反動がここにきて私を激しく襲い始める。
心も頭ももうとっくに許容範囲を超えていた。

きゅうっと、切なさが増す。


熱い。
身体の芯が……熱を帯びているのがわかる。

とん……と、背中から壁にもたれかかった。
自分の身体を両腕で抱きしめる。


10年前、先生と一度だけしたセックス。
今はもう朧気なはずのその記憶が、先生との再会で生々しく蘇った。

先生の指。
その唇。
その声、そのときの匂い。
すべてで愛された。

その記憶に、今の先生の姿が重なっていく。
あのときよりさらに大人の先生が。
スーツ姿の先生が。


身体が震えた。


鮮明に蘇る記憶にとても立っていられなくなった私はその場にしゃがみこむ。


身体が、疼いていた。


ここしばらくは彼氏もいなくて、なんだかそういうことからはずっと離れてて、衝動からすら遠ざかっていたのに。


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