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水蜜桃の刻
第8章 熱感


「……なんで……?」


なんでこんなふうに、突然のようにその快楽を思い出したかのように、私の身体は────。


唇を、噛む。


この熱感が、すべてだった。
私は、まだ、こんなにも。


「先生……っ」


さらに、身体を強く抱きしめる。


その感情は叶うことがないと思っていた。
どんなに先生のことが好きって私が思っても、先生の中で生徒は恋愛対象にはなれないってことを実際言われた以上、それは納得しなければいけないことだと。
先生の中では16歳の私はただの子どもにしか過ぎないのだと。

それでも私の願いを先生は一度だけ受け入れてくれた。
私を……抱いてくれた。
それだけでもう、充分すぎるくらい幸せだって、そう思った。思おうとした。


……諦めた、はずなのに。


そんな思いが、胸に渦巻く。


先生との約束は『一度きり』
その約束を私は守った。
それからはもう普通の生徒として、先生をただの家庭教師の先生として、そうやって見て、そうやって接した。

それはとても苦しかったけど、それでも先生といられる時間は幸せだった。
先生がそこにいてくれるだけで、私を見てくれるだけで幸せだった。

先生が先生じゃなくなって、もう会えなくなった日──私は今までにないぐらい、泣いた。
叶わない恋だとわかっていたのに、会うことさえかなわなくなった現実が苦しかった。

諦めるという選択肢しかないのに。
そんなの、ちゃんとわかってるのにそれでも泣いた。
どうして私は子どもなんだろう。
どうして先生は大人なんだろう。
どうすることもできないそんなことまで思った。


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