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水蜜桃の刻
第8章 熱感


……それでも、過ぎていく年月。


先生とのあのことを忘れてしまいたくなくて、記憶に縋るように、何度もわざと思い出していた。
思い出せば切なく、苦しくなるのに……わかっているのに、そうやって自分をその恋に縛り付けていたあの頃。


クラスメートに告白されたとき。
新しい関係は、先生を忘れさせてくれるだろうか──そう思って始めたその彼との時間。

それはとても穏やかな、時間。
自分を見失うことなどない、関係。

……そう、見失わない。
その程度の、想い。

いつもクールだね、と言われ、俺のこと本当に好き? と聞かれて、先生に感じたあの気持ちとは違う──それをもう自覚してしまっていた私は、結局彼と別れた。


20歳のとき。
成人式に出席した私は、初めて付き合ったあの彼と再会した。

久しぶりに話をして、私をふって付き合った同高の彼女とは、結局長続きしなかったことを知る。

そして、今さらだけどよりを戻したい──そう、言われた。

私は正直に、もう好きとかそういう感情はない、って答えたけれど、それでもいいよ、って。
「付き合ううちにまた俺を好きになるかもしれない。好きになれなかったら振ってもいいから」って……そんなことをひたすら言うからなんだかおかしくて、私はその関係を受け入れることにした。

そんな彼との関係は楽だった。
もともと気が合う友達から始まった付き合い。
あれから5年経っていたけど、すぐにあのときのようにまた、その関係を楽しめた。
彼氏というより、身体の関係のある男友達、といった方が正しかったかもしれない。


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