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秘愛  
第1章 暑さから熱さへ・・
そんな不快もついてまわるが、他はいいところがたくさんある。

トイレの広さと明るさ。
ベンダーマシンの充実。
大きな窓。
天井から床までガラスで、夜になると自分の足の下に街灯りが瞬いて。

特に気に入っているのが喫煙室。
よくありがちなのが、フロアの真ん中あたり、ガラスで囲われて、
廊下を行きかう人から丸見え。
これじゃあ動物園の展示室みたいだな、ヘビとかイグアナの・・
今まではそう思って横目でチラ見していた。

しかしこのビルの喫煙室は違う。
窓際にあって、明るいし陽射しやきらめく夜景が楽しめる。

たいして広くはない。
今のご時世、タバコ人口は昔に比べたらかなり減っただろう。
健康のため、節約のため。
それでもやめられないスモーカーはいる。
その少数派のための部屋なのだから、そう広さはいらないのだろう。


孝明は、実はタバコは吸わない。
二十歳になった記念に、と成人式の後に吸ってみたものの、
あまり好きにはなれなかった。

だから喫煙室を使うことはない。
ないのだが、この前を通るとなぜか入ってみたくなる。

それもこれも、仕事の喜怒哀楽を感じさせずに
一日の光の変化を感じられる場所だからかもしれない、と
孝明は思った。
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