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秘愛  
第5章 この手の中に

その日の夜、次の日が休みとはいえ、さすがに
時計の針が9時を指したのを見て仕事を切り上げることにした。

コーヒーと鞄とを手にして喫煙室へ行くと、遙香がいた。
孝明の姿を見ると手をあげた。

「お疲れさま!久しぶりね、3週間くらい会ってない?」

「そうっすね、なんだかんだで・・
 オレがシンガポール行って、帰ってきたら遙香さんがベトナムですもんね」

遙香さん・・そう呼ばれて、頬が少し緩んだ。
それから慌ててカウンターの上のタバコケースを掴んでバッグに入れようとした。

「あ、タバコ、吸ってたの?」

「・・ん、だって、篠宮くんと会えなかったじゃない。
 これしか吸うもの、無かったんだもん。仕方ないでしょ?」

その言葉の意味に、すぐには気づけなかった。

オレがいなくてこれしかなかった・・ってことは・・・?
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