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第12章 美優-懐妊

「…はぁ～…」

家族団欒の夕食も終わり自室に戻った美優は椅子に腰を下ろすと、食後のホットココアを飲みながら大きく溜め息をつく。

「…そんな事…言われても…」

美優は椅子の背凭れに身体を預けると、天井を眺めながら夕方に起こった出来事を思い出す。

「美優」

「…えっ!?…」

陸上部の練習が終わりシャワー室に向かう美優は名前を呼ばれ振り向く。

「…コーチ…」

そこには妙に緊張した陸上部のコーチが立っていた。

「美優。もう帰るのか?」

「…はい…シャワー浴びてから帰りますけど…何か?…」

「か、帰りにお茶でもしていかないか?」

「…はぁ…お茶…ですか?…」

「い、いや。これからの練習についてとか、何か不満は無いかとか。そんなに時間はかからないから」

今まで女性を誘った経験など無い事が丸判りのドギマギ感が美優に伝わる。

「…良いですよ…1時間くらいなら大丈夫です…」

「そ、そうか!ああ。1時間もあれば充分だよ。じゃあ門の所で待ってるから」

そう言うとコーチは足早に去って行った。

「…変なのぉ…」

美優はコーチの後ろ姿を眺めながら漠然と部活の話では無いだろう事を感じていた。

「…お待たせしました…」

シャワーを浴びサッパリした美優は待ち合わせ場所でソワソワしているコーチに声をかけた。

「お、おお。じゃあ行こうか」

コーチは明らかに練習の時と違い緊張している。

『…コーチ…まさか…美優に告るのかなぁ?…何か…そんな感じぃ…』

スタスタと無言で歩くコーチに遅れまいと美優は足早についていく。