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隷従超鋼ヴァギナス [1] 胎動編
第4章 星宮ユリカ
潜水都市。
日本海溝に掘られた都市型海底居住空間はそう呼ばれていた。
あの戦いを生き延びたケイと英瑠は、やってきた輸送ヘリで救助され、ここへとつれて来られたのだった。
海底四千メートルもの深さにあるとは信じられないほど、都市の中は光に満ち溢れ、清涼な空気に満たされていた。
ケイたちのように救助された人々が集い、大人たちは割り当てられた仕事場で働き、子供は学園生活を送る。
人類がこの数年であっという間に失った日常がここにはあった。
それでも、失われたままの物もある。搬送されて数日でケイはそれに気づいていた。
(風でしょ……雨も降らないよね)
そして何より空だ。照明が人工的に昼と夜を創り出す環境。日中はそれほど気にならないが、夜に星空が見えないのは寂しかった。
改めて人類が奪われてしまったものの大きさを知る。
ケイは今日、呼び出されて研究所を訪れていた。その招待状には〝ヴァギナス機関″と書かれていた。
研究施設と思しき白い建物が広大な敷地に点在している。限られたスペースを有効活用している潜水都市にあって、かなり贅沢な場所の使い方だと思う。つまり、それだけ重要な研究機関ということなのだろう。
それは研究所の門をくぐろうとしたときから明らかだった。敷地へ、そして中の建物へ入ろうとするたびに、守衛にいちいち呼び止められ招待状を提示させられた。挙句の果てには機密保持の宣誓書なるものにまでサインをさせられる。
幾多の関門を越えてようやく辿り着いた応接室のソファに掛けたときにはもうヘトヘトだった。
これ以上まだ書類の提出だのなんだのがあったらどうしようと辟易顔をしているところに、ドアがノックされ、白衣を着た年若い女性が現れた。
「ウフフ……ごめんなさいね、招待したのに色々と面倒な手続きばかりで」
ケイの表情を見るなり彼女は言った。
「心配しなくてもいいわよ。これはただの資料。あなたにサインの必要はないわ」
と、小脇に挟んでいたファイルケースを示して微笑む。お見通しのようだ。
「こんにちは、銀河ケイさん。私は星宮ユリカ。この施設のヴァギナス研究開発チームで働いています。専門は霊長類学。これでも博士よ」
日本海溝に掘られた都市型海底居住空間はそう呼ばれていた。
あの戦いを生き延びたケイと英瑠は、やってきた輸送ヘリで救助され、ここへとつれて来られたのだった。
海底四千メートルもの深さにあるとは信じられないほど、都市の中は光に満ち溢れ、清涼な空気に満たされていた。
ケイたちのように救助された人々が集い、大人たちは割り当てられた仕事場で働き、子供は学園生活を送る。
人類がこの数年であっという間に失った日常がここにはあった。
それでも、失われたままの物もある。搬送されて数日でケイはそれに気づいていた。
(風でしょ……雨も降らないよね)
そして何より空だ。照明が人工的に昼と夜を創り出す環境。日中はそれほど気にならないが、夜に星空が見えないのは寂しかった。
改めて人類が奪われてしまったものの大きさを知る。
ケイは今日、呼び出されて研究所を訪れていた。その招待状には〝ヴァギナス機関″と書かれていた。
研究施設と思しき白い建物が広大な敷地に点在している。限られたスペースを有効活用している潜水都市にあって、かなり贅沢な場所の使い方だと思う。つまり、それだけ重要な研究機関ということなのだろう。
それは研究所の門をくぐろうとしたときから明らかだった。敷地へ、そして中の建物へ入ろうとするたびに、守衛にいちいち呼び止められ招待状を提示させられた。挙句の果てには機密保持の宣誓書なるものにまでサインをさせられる。
幾多の関門を越えてようやく辿り着いた応接室のソファに掛けたときにはもうヘトヘトだった。
これ以上まだ書類の提出だのなんだのがあったらどうしようと辟易顔をしているところに、ドアがノックされ、白衣を着た年若い女性が現れた。
「ウフフ……ごめんなさいね、招待したのに色々と面倒な手続きばかりで」
ケイの表情を見るなり彼女は言った。
「心配しなくてもいいわよ。これはただの資料。あなたにサインの必要はないわ」
と、小脇に挟んでいたファイルケースを示して微笑む。お見通しのようだ。
「こんにちは、銀河ケイさん。私は星宮ユリカ。この施設のヴァギナス研究開発チームで働いています。専門は霊長類学。これでも博士よ」