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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
『とにかくここじゃ濡れるよ。
むこうへ渡ろう』
麻衣の背中に手をそえて小ばしりに横断歩道をわたり、地下街への昇降口で雨をしのいだ。
びしょ濡れで息を切らせたふたりは、地下へ出入りする人々からの怪訝(けげん)な視線をあびた。
『篠原さん……だったよね。
こないだはありがとう』
いいえ、と麻衣は黙ったまま首をふった。
『心ここにあらずって感じだ。
今からどうするの?』
『どうしよう……
これから……』
うつろにそう答えたあと、彼女は圭司と目を合わせることなく、噛みしめるような長いまばたきをして、うなだれた。
『おなか、すいてない?』
圭司の質問の意味を理解した様子もなく、麻衣はうつむいたまま力なく首をふった。
圭司は、このまま彼女を置いていくことが無慈悲な行為のように思え、よかったら自分の誕生日を祝ってくれないか、と麻衣を誘った。
『無理にとは言わないよ。でも、
今のキミに、じゃこれで、とは
とても言えないよ』
『ごめんなさい……
わたし……』
頼りなく言って、ちらりと顔を上げたなり、麻衣は黙りこくった。
篠原麻衣を茫然自失(ぼうぜんじしつ)とさせる何かがあったのだろう。
何が原因か知らないが、車道へ女をそのまま置き去りにするヤツがあるものか。
そいつは一度もバックミラーを確かめなかったのか、と圭司は怒りよりもまず、同じ人間として運転手の非情な行為を呪わしく思った。
いつまでも態度のはっきりしない麻衣にしびれを切らした圭司が、いきおい麻衣の手をとった。
『行こう、ほっとけない』
ちょっと強引か、とも思ったが、圭司につかまれた手を彼女が振りほどくことはなかった。