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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
百貨店の前にはショーウインドーのマネキンより美しい立ち姿で、並木早苗が待っていた。
『待ったか?』
コートのベルトを小粋にむすび、髪をきりりと結いあげた物言う花は、人待ち顔をくずすなり女連れの圭司に目を丸くした。
『いま着いたとこよ』
¨つれあいは誰なのよ¨と口角をあげて目線で合図する早苗に、圭司はつかんだままだった麻衣の手をあわてて離し、麻衣を紹介した。
『前にモデルになってもらった篠原さん。
そこで偶然出会ったんだ。
一緒に祝ってもらおうと思ってさ』
早苗は茶目っけたっぷりの表情で、
『はじめまして並木でぇす。
圭ちゃんちの、同居人です』
と、およそ悪意とは縁のない、すがすがしい笑顔の挨拶をした。
歳相応の色気を放つキャリアウーマンのそれらしからぬ気さくな態度におされ、麻衣は口元だけの小さな笑みを返すのがやっとだった。
同時に、二人が恋人関係にあると思い、今になって自分の置かれた不自然な状況にあわてた。
『あ、あの、私、
お邪魔じゃ……』
『ぜんっぜん大丈夫。
圭ちゃんが連れてくる人に
悪い人はいないわ。
それにあたしたち、
恋人同士じゃないのよ』
¨心配しないで¨と麻衣のヒジのあたりをさすると、早苗は予約した店へ電話をかけて人数の追加を頼んだ。
早苗が店とやりとりしてるあいだ、麻衣は所在なげに目線をさまよわせ、額にしたたる雨をハンカチでぬぐっていた。
その背中に圭司はそっと手を添えた。
大丈夫、大丈夫―――。
麻衣は、圭司がそう言っているように感じ、実際に圭司はそう思っていた。
『いいわ! オッケーよ。
行きましょう』
店の返事はかんばしいものではなかったが、早苗は快諾をえたようなそぶりで電話をしまい、言葉かずの少ない麻衣を圭司とのあいだに挟んで店へと向かった。