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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 
桜色に肌を染め、尾を踏まれた蛇のように身をよじりながら、早苗は固く目を閉じ、絶頂へと昇りつめてゆく我が身を恥じた。
心にうがたれた穴の淵に立って、底なしの暗闇を見つめる自分が見えた。
快感で胎内がねじ切れそうになる、その間際、唐突に別れ際の圭司を想った。

¨仕事、無理するなよ¨

圭ちゃん、笑ってた。
あの時、圭ちゃんは、バカなことするなって言ってくれてたんだ。
あたしに言いたいことがたくさんあったのに、黙って見逃してくれたんだよね。
だけど、だけど、あたしは……。

背中でベッドが哀しくきしむ。
河村の容赦ない往復運動が、カミソリの刃を振りつけてくるように圭司への想いを切り刻んでいく。

――――(圭ちゃん、ごめんなさい……)

熱がうせていく。
醒めていく。
重い。
上で動く男がうとましい。
はやく終わってほしい。

切迫した河村があわてて結合をほどき、わしづかみに陰茎をこすった。
快楽に揉みだされるように精液がぶちまけられ、早苗の首筋にまで飛びちった。
その瞬間、早苗は猛烈な嫌悪感にさいなまれ、かたく目をとじた。

くずれ落ちてきた男の乱れた息が早苗の耳元で響く。
早苗は顔をそむけ、心に鍵をかけた。
何も考えてはいけない。
早くここから出たい――――。

ふんだんに色香を放ち、さまざまな行為を許容した早苗との継続的な関係を、河村が望むのは当然だった。
¨これからもつき合えよ¨
そんな意味をこめて、河村は早苗の耳元に言葉を置いた。

『愛してるよ』

瞬間、早苗は体の芯が凍るほど、ゾッとした。

『よしてよ……』

怖気をともなった口調で静かに言い、寝返りをうって河村に背を向けた。
余計なひとことが、早苗の胸に苦々しいものを湧かせた。
あまりの軽薄さに虫唾(むしず)がはしり、怒りさえおぼえたが、その怒りの切っ先は河村にではなく、自分自身に向けるべきものだと早苗は思いなおした。

自分がバカだったのだ……なにもかも。
そう思えたとき、早苗は己を呪った。
失敗だった、と後悔した。



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