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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 
河村にとって今夜の早苗は、ハレンチな恰好で男の欲望を受けとめた女にすぎない。
服従したはずの淫乱女につれなく背をむけられ、河村はいたく傷ついた。
落胆は恥を生み、男のプライドに亀裂を走らせる。
この時点で彼はまだ冷静であったが、行動はおろかであった。
早苗がかたくなに守る「唇」を奪い、完全に平伏させることで傷ついたプライドの修復をはかろうとしたのである。

『なぁ、並木ィ。
 嫌がるなよ』

河村がおおいかぶさる。
早苗のアゴをおさえつけ顔を寄せた。

『ちょ、やめてよ、いや!』

逃れようと顔を振った早苗の首へ河村の手がすべりこんだ。
早苗は、絞められる、と直感して、力まかせに抑えてくる河村の顔を両手で押しやった。
足をばたつかせて暴れ、そうするうち、闇雲に振りまわした早苗の手が河村のこめかみに強く打ち当たった。

『おまえ……』

見開いた河村の眼に怒りが宿り、さらに大きく見開かれた瞬間、バチッと音がして早苗のまぶたに火花が散った。

『痛いっ!』

頬を殴打された早苗は、とっさに顔を守り、体を丸めた。
打たれた衝撃で片側の目から涙がこぼれ出た。

『すまない。
 悪かった。すまない』

河村はすぐさま我に返り、逆上してしまった自分に驚いたという様子で狼狽していた。
おろおろと早苗の髪をなでる他なにもできず、やがて大きく息をついておとなしくなった。

場をとりなすのに時間がかかるだろうと、天井を見あげた河村の脳裏に早苗の痴態が浮かぶ。
二度目は早苗をソファにくくりつけ、器具でいたぶるつもりだった。
しくじった河村は苦虫をかんだような気分で首をふった。




 
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