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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
 
三人は、にぎやかな本通りから細い路地に入り、通りの中程にぼんやりと明かりを洩らすレストランの扉を押した。

小ぢんまりとした二十席ほどの小さなイタリアンレストランは、漆喰壁の落ち着いた内装で、明るくなり過ぎない程度のボールランプがテーブルごとに燈してあり、豪華さをわざと抑えた店のつくりとオリーブオイルの香りが、¨味で勝負する¨というオーナーの意気込みを匂わせていた。

そそくさと脱いだ上着をイスの背もたれに引っかけると、早苗はウェイターにワインを註文した。

『丁度よかったかもしれないわ。
 浩ちゃん遅れるってメール来たでしょ?
 だから、遠慮しないで。ね』

借りてきた猫のように小さくなる麻衣を気づかい、早苗はこれ以上ないというぐらいの笑顔でワイングラスをかかげた。

『さ、乾杯よ。
 圭ちゃんおめでとう』

『お、ありがとう』

麻衣は消え入りそうな声で、おめでとうございます、と言い、場ちがいな心境をいったん抑えこんで、二人が寄せてきたグラスにそっとグラスを当てた。

彩りの良いカナッペを前菜にワインをやり、それを始末する前に運ばれてきた最初の皿に舌鼓を打った。

『どう?』

『牛肉をナスで巻いてるのか。
 いけるよな、うまい』

早苗の問いに、圭司が答えた。

『インボルティーニっていうのよ。
 篠原さんは? どう?』

『ええ、おいしいです』

麻衣の小さな返事に早苗は笑顔でこたえ、勤め先の愚痴をこぼしながら料理はこぼさず口へと運んだ。

名前以外なに者か判らない、篠原という陰気な女がこの場にいる事情を早苗がいっさい問わなかったのは、早苗の、圭司への信頼がゆるぎないものだからである。
¨圭司は悪人を連れてこない¨
自分が口にしたその言葉が、圭司の人がらを説明するのにもっとも適した言葉だろうと、早苗は思うのだった。



 
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