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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 
混ぜ返しようのない早苗の恋情が、河村の誘いに応じる覚悟をさせた。

麻衣が現われ、早苗の恋心は行き場を失ってしまった。
圭司と麻衣の誠実な恋模様や、よどみのない渡瀬の求愛。
同居人たちは悪意なく、早苗の恋心を追いつめていった。

目的を失った愛情は、存在を保ち、さまよう。
これほど厄介で始末の悪いものはない。

早苗の本心は、率直な恋愛感情と与しようとしない早苗自身と敵対するしかなかった。
勝手のわかる男に荒々しくなぶられ、心のない人形になって抱かれてしまえばすべてに蹴りがつく。
そうして圭司への想いを痛めつけ、自らを蔑(さげす)み、圭司にふさわしくない女となることで、もう圭司を望むなと自分に命じ、早苗はそれに従うつもりだった。

そうできると信じ、自分以外のなに者かになるのだと覚悟してのぞんだセックスだった。
もしかすると、河村とのあいだに新しいパズルのピースが生まれ、今の自分にうまくはめ込むことができるかもしれない、と、そんな微かな期待もあった。

だが人間の感情というものは、それほど効率良くできてはいない。
特に心根の美しい時期に芽生えた感情や記憶との決別は、そうたやすくはない。

早苗は、ついこのあいだまで幸福のかけらを胸に生きていた。
いつになるかわからない、けれどもいつかの結実を夢に見ていた。
それがいま、恥知らずなセックスをしたあげく悪態をついて殴られ、頬を腫らしている。

自尊心を捨てて男の戯具になったことも、その男に愛がなかったことも、頬の痛みも、そんなことはどうでもよかった。
早苗が苦しかったのは、性行為の快楽をむさぼる自分の中で、圭司への想いが輝きを失わないことだった。

圭司を忘れるための自虐は、薄汚い肉欲と自意識の応酬以外に何ものも生み出さなかった。
それどころか、想いはさらに色濃いものとなり、今まで以上にはっきりと、その輪郭を浮き彫りにしてしまったのである。


 
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