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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
第六章 猫
鉄扉のひらく音を聞きつけて、洗面室から風呂あがりの麻衣が顔を出した。
『お帰りなさぁい』
いつに変わらぬ明るい声に救われる思いがして、圭司はホッと息をついた。
『ただいま』と荷物を置いて背筋を伸ばす圭司に、飛びつくように抱きついた麻衣が唇をつぼませた。
『うがいもしてないのに?』
『じゃ、ほっぺ』
湯あがりで桃色を咲かせる頬に唇を捺(お)して、麻衣を抱きしめた。
『ごはんまだでしょ?
早苗さんは?』
別れ際の早苗の様子を思い出して、圭司は胸を突かれたような思いがした。
黙って左右に首をふる。
『じゃ二人鍋しよ。
浩二さんも事務所に泊まり込みだって。
すごく忙しんだって』
『へぇ、以心伝心。
二人鍋、贅沢だな。
ではその前に……』
麻衣を抱き上げてベッドに向かおうとしたが、麻衣は物悲しい表情を作ってイヤイヤと顔をふった。
『哀しいお知らせがあるの』
『なに?』
圭司はひやりと身をすくめた。
『今日も深夜勤なの、連勤』
麻衣は、おどけた泣き顔に崩す圭司の首に巻きついてキスをした。
『んふふ、お利口に待っててね。
さ、おろしてくださいな。
お鍋の用意しなきゃ』
トンッ、とつま先で着地して、もう一度圭司にしがみつく。
『せっかく二人きりなのに、ね』
麻衣は残念そうに口を尖らせた。
二人で鍋をつついたあと、雑炊が煮たつ前に麻衣は髪をととのえ、遅刻すると連呼しながらバタバタとヘルメットをかぶり、いつものように鉄扉の枠にガンッ、と頭をぶつけて出て行った。
圭司は二人分の雑炊を平らげるとソファで横になった。
しばらくテレビを見ていたが、徹夜明けの満腹でさすがに眠気に逆らえなくなり、ベッドに倒れ込んだ。