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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
深夜二時
枕元の携帯電話が圭司の眠りを破った。
夢うつつで毛布の中から手を伸ばし、音のするあたりを何度か空振りして携帯電話をつかんだ。
『ふぁい、もしもし……』
《俺だ、洋介》
『あぁ、なに……』
《トラをひきとってくれ。¨月ン中¨だ》
『はぁ? 誰だよ』
《早苗ちゃんだよ》
『あぁ……』
圭司はベッドの上で正座した。それから大きなあくびをひとつした。
『¨月ン中¨、だな……』
《あぁ、オマエが来るまでは
俺がついててやるよ。早く来い》
『あい、あい。悪いな、すぐ行くよ』
電話を切り、ほんの数秒目をとじて回らない頭を無理に回すと、呑みつぶれた早苗の姿が思い浮かんだ。
別れ際に早苗が見せた中途半端な笑顔と、それがもたらした結末。
圭司は、やりきれなくてうなだれた。
こうなることをそれとなく感じていた、にもかかわらず、もったいなくも予感を無駄にしてしまった。
イラ立ちがつのり、パンッと毛布を叩いた。
倉庫の中は暗く、月明かりと出入り口の足元灯がぼんやり灯っているだけで、深夜連勤の麻衣が出勤したあと、渡瀬が帰った様子はない。
圭司は渡瀬に電話した。
¨月ン中¨はオフィス街のはずれにある。渡瀬の事務所からそう遠くない。
『あ、浩ちゃん。
早苗、¨月ン中¨でつぶれてんだって』
《え? また?》
『うん、たまたま、
洋介が飲んでたみたいで
今、連絡あったんだ』
《そうなんだ……》
『連れて帰ってくれって、
洋介が言ってるんだけど』
ふぅ、と息を吐く音が聞こえ、圭司は、渡瀬が躊躇している様子を電話ごしに感じた。
『どうしたんだよ』
《圭ちゃん、行ってやってくれ》
早苗のことなら一も二もなく飛んでいくだろうと思っていた圭司には意外な答えだった。